私は強い違和感をおぼえた。あまり聞かないニュースである。
それに対してのコメントを読むと、侵入者が悪いのであり取り押さえた警察官は悪くないという意見が多かった。
首を絞めてカネを出さないと殺すぞといった、というのであるが、首を絞めた男は警察官が駆けつけた時には心肺停止状態であったのだから、何があったのかを知るのは死んだ男と首を絞められた女と取り押さえた男の3人しかいない。
女性が長男である男性に助けを求めて長男が取り押さえたとあり、それが事実であるなら殺すぞと言われたというのは女性の証言であろう。
家庭の寝室に音声まで録音する防犯カメラがあったとも思えない。
記事には「金を出せ、騒ぐと殺すなどと脅した」と断定しており、「女性の証言によると」あるいは「取り押さえた男の証言によると」という記述はない。
記事をさらっと読むと、「殺されそうになったので必死で取り押さえた結果死なせてしまった事件」のように読める。
ただ、この記事に書いてあることだけではなんとも言えないな、と私は感じた。
記事だけであれば、なんとも言えないな、で済む話であるが、
わたしの疑問が大きくなり、またある種の怒りが沸いてきたのは、この記事についていた、取り押さえた男を擁護するようなコメントに対してだ。
首を絞めてカネを奪おうとしたのだから死んでも文句は言えない、60歳の女性の首を絞めた時点で何をされてもしょうがない、といったコメントをつける人々に対し、別の疑問というか怒りが沸いた。
現場に居合わせたわけでもない、関係者の証言も聞いていない人々が、原稿用紙1枚にもみたない短い記事を読んだだけで何もかもわかったようになぜ断定できるのだろう?
この記事で私が間違いなく事実だと信じられたのは、侵入した男が死んだこと、その場に女と男がいたこと、3人の年齢、侵入された家にいた二人が母子であったこと、取り押さえた男が警察官であったこと、くらいである。
現場で何があったかは私にはわからないし、読者にもわからない。記事を書いた記者だって伝聞に基づいて書いているだけだ。
記事を読むと死んだ男は凶器は持っていなかったようだ。
取り押さえられる際に激しく暴れたと書いている記事もあるが、これも当事者以外誰も見ていないことである。
警察官の証言であれば無条件に事実となってしまうのだろうか。
そして、いくら強盗に入られたからといって、母親が首を絞められたからといって、身を守るためだからといって、そんなに簡単に人を死なせることがあるだろうか?
記事は警察官の行動についてなんの疑いも呈していないが、この記事を読めば疑いたくなるのが普通である。
私が先ほど怒りを覚えたというのは、それに対して警官が悪いわけがない、侵入した男が悪いのだという断定する何も知らないはずの人々の無責任なコメントに対してである。
凶悪事件を起こした人物に対しヒステリックに死刑にしろという人たちが私は嫌いだし軽蔑する。
警察も、裁判も、刑務所も、法律も、そんなに絶対的なのだろうか。
私にはそういう人たちの考えも、強盗や殺人犯の動機と同じように、単純で盲目的で自己中心的で無根拠なものにしか思えない。