このことを感じたのは、父がガンになって、ガンについて調べていたときである。
ガンというのは、遺伝子の機能の異常であるそうだ。
遺伝子というのは本来自分と同じ細胞を複製するためのものであるが、
がん細胞というのはその複製機能に障害がおきて、複製すべきでない細胞を複製してしまう。
がん細胞とはただ自身を増殖することだけが目的の細胞なのである。
そういうと人にたとえてワガママな非常識な存在のようだが、がん細胞に「悪意」はない。
「イッヒッヒ、このカラダをメチャクチャにしてやれ!」などという意志は持たない。
ただ、自分の増殖だけを目的とする、無意志の無表情の存在である。
ガンというのはそういうものである。
社会のガンというのも同じで、それは悪意をもつもの、自説を曲げない頑固者のことではなく、
なにも目的を持たず機械的に本能にまかせみずからを増殖させていく存在なのである。